感想
- 「こいつはダメなやつだ」のテンプレ的なほどのわかりやすさと、なのに「なんかおかしいな」の小さな違和感の重なりが積み立てられていって、突然大きな不安になって返ってくる構成。こわっ。めちゃくちゃおもしろい。
- そして再読すると、ひとつひとつの小さな違和感が、つまりは最初から描かれていたのだという気づきになる。ぎぇーーーーっ
- 一番柔らかいところがボロボロの彼が、だからこそかなしいかな頑丈になり、でもその頑丈さが魅力として描かれるところに、この作品のやさしさと誠実さがあるよ。
- タイトルもいいよね。「ほか全部ダメで、お前しか残ってないからあまりもののお前にした!」という風だったのに、読了すると意味がくるっと、全く別の質感のものに変容しているの。熱烈。
- ラストまで読んで同人まで読んだあとの土下座、土下座しながら語られた結婚したいその理由のあのセリフもまた、深みも重みも全然違うのよ。ヒロくんがどれだけ溺れていたのかという話。溺れてる人のことって、周囲からはそう見えなかったりするって言うもんね。ヒロくんの場合は本人もどこまで自覚できているかがこの時点ではかなり疑わしい(というか頭ではわかってるつもりで、たぶん、ぜんぜんわかってなかっただろうと思われる)から深刻。
- ミト先生の絵本こわい。
- そしてもうひとりの彼の「空」は、彼にとっては穴だけれど、ボロボロの彼にとっては常に湧き出るブラックホールのように大きくて豊かに満ち満ちたパワーあふれる源泉に感じられていたわけで、凸と凹……破れ鍋に綴じ蓋……という感じ。
- 「割れた鍋でも閉じて幸い」という感じ。この作品に限らずだな。存在も出会いも、そうであったと気づけることも、全てが暁光であるよ。